2021/08/24(火)OPA1622のGNDの扱いと音質比較

Ti製のSoundPlus高性能オーディオ・オペアンプ「OPA1622」のGNDをどこに接続するか問題について。

OPA1622とは

高性能オーディオ用ICであり、音質も大変優れていることから人気のオペアンプです。SoundPlusシリーズの中でも最高の「Ultimate」を冠しています。

このICは「100mA以上の電流」を取り出せ、ヘッドホンなどを直接駆動することも可能です。もっぱら「いわゆる載せ替えオペアンプ」として人気のようですが、このICは10pin DFNとして提供されており、通常の方法ではオペアンプとして載せ替え使用することはできません。

またこのオペアンプには±電源ピンの他に、GNDピンがありこのピンの処理方法について多少の議論があるようです。

OPA1622のGND処理と音質比較

GND端子の接続方法は3つ考えられます。

  1. V-(マイナス電源)につなぐ(秋月変換基板ほか)
  2. 変換基板上で仮想GNDにつなぐ(Bispa変換基板)
  3. 8pinオペアンプ互換を諦めGNDに直接接続する(Bispa変換基板では可能)

仮想GNDの回路はこんな感じです。*1

OPA1622_VG.png

比較結果

(3)GND接続 > (1)Vee接続 > (2)仮想GND回路付

ある種、当たり前の結果になりました。

*1 : Bispaの基板では10KΩではなく22KΩが使われているようです。

GNDはどこに接続するべきか?

データシートには次のような記述があります。

OPA1622-GND.png

【赤下線】GNDピンはノイズが最小でインピーダンスが最も低い基準に接続しろ

ノイズが少なくインピーダンスが低い基準点というのは、通常はGNDになりますが*2、GNDに接続できない状況でしたら次点でマイナス電源に接続するのは決して悪いことではありません。*3

上に示した仮想GND回路は、電源ピン(V-)に直接接続するよりインピーダンスが高いので、音が悪くなるのは当たり前です。

*2 : 回路全体が仮想GNDで動作している場合は除く。

*3 : 似たようなものだからとプラス電源に接続すると動作しなくなるのでご注意。

一番良い方法は何?

「なんだ仮想GND基板ク○じゃん」という結論は、実はちょっと焦りすぎです。

OPA1622.jpg

左が仮想GND付き変換基板(R/C裏面実装)で、右がGND-Vee接続変換基板です。GND-Vee接続基板は、上ではCを載せずに評価しました。ここには0.1uFのECPUを電源パスコンとして接続することができます。

仮想GND付基板は、GNDを接続するためのPAD(旧Bispa変換基板ならばホール)があります。仮想GND付き基板はGNDを正しく接続すると基板中のC1/C2が電源パスコンとして作用します

その結果こうなります。

C付き仮想GND基板のGNDを接続 > C付きGND-Vee接続基板 > GND接続 > その他

まとめ

  • 仮想GND付き変換基板をそのまま使うのは愚行。
  • GND-Vee接続のオペアンプ変換基板は、電源パスコン付きのほうが音が良い。
  • 仮想GND付き変換基板は、Cを付けた状態でGND端子を回路中のGNDに接続する。
    • Rはあってもなくてもどちらでも良い。

おまけ

実験に使った基板はBispaで販売されているものです。

ボリュームの音質改善。L型とT型アッテネータ

はてブ数 2016/06/22電子::アンプ

はじめに

onshitsu-r01.png

抵抗の場所と音質の謎で述べたとおり、抵抗には「音質への影響が大きい要素」と「音質への影響が比較的小さい要素」があります。

  • 直列要素は影響が大きい(図のR1)
  • 並列要素は影響が小さい(図のR2)

ボリュームは、可変抵抗という物理的制約上音質が良いものを利用しても固定抵抗に比べたら大きく劣ります。擬似Lアッテネーターはこの特性を利用して、ボリュームの音質を改善する方法です。

不思議な現象

volume-T_01.png

今回の実験回路です。VRは10KΩに固定して話を進めます。

R1とVRは擬似L型アッテネーターを構成しています。R1は2K~4.7KΩぐらいの抵抗を利用します(入力の大きさによる)。

R2は入力抵抗です。直列要素ですので抵抗があればあるだけ音質が劣化するはずでした。実際、今まで製作してきたアンプでは、R2は接続せず、常に0Ωにしています。

しかしこれだけでは理解できない現象に出くわしました。この回路では、R2を接続したほうが音が良かったのです

最初は2KΩぐらいで試したのですが、抵抗値をあげるとより音が良くなります。具体的には、R2として10KΩぐらいを接続すると一番音質が良くなりました。22KΩでは、オペアンプ入力端子のインピーダンスが上昇しすぎるのか、音質が低下し始めました。

つまり擬似Lアッテネータよりも、擬似Tアッテネーターのほうが音が良かったのです。

本当に音質を改善しているのか?

これまでの状況では、単に「オペアンプにとって入力インピーダンスがほどほどにあると音質が良くなる」という可能性を否定できませんので、きちんとしたT型アッテネーター回路を製作して検証しました。

volume-T_02.png

R1=2K(LGMFSA)、R3=1K(秋月カーボン抵抗)として、R2(LGMFS)を0Ωと10KΩで比較してみました。明らかにR2(LGMFS)を付けた方が音質が良くなります。

今度は逆にR3をLGMFSの1Kに変更した上で、R2を秋月カーボン抵抗の0Ωと10KΩで比較してみました。さすがに微妙なところですが、この場合もR2を付けた方が音質が良くなりました。

試しにR3をが切断してみると、R2の種類によらず存在しない(0Ωの)ほうが音質が良くなりました。よってこの現象は「R2とR3の何らかの相互作用によるもの」と考えられます。

また「R2の抵抗の種類によらず音質改善効果があり」、音質の良い抵抗のほうが効果が高い言えます。

オペアンプでない場合

昔、抵抗の音質をチェックしたときは、FETバッファアンプを使用しました。このとき、R2に相当する抵抗は入れない状態が一番良かったのですが、本当にそうなのか再度確認してみました。

volume-T_03.png

結論から言うと、R3にボリューム(2CP601)を付けた状態で、手持ち抵抗でもっとも音質が優れるRT0603をR2につけても音質が劣化しました。

つまり、この現象は「オペアンプの非反転入力に接続したときに改善効果があるが、FETバッファアンプのような構成では効果がない」ということが分かりました。

音質改善能力の差

さらに検証してみると、R2による音質改善はオペアンプによって大きく異ることが分かりました。改善が大きかった順に並べます。

オペアンプ電圧ノイズ電流ノイズ入力バイアス種類
LME497214nV(1K)4fA(10K)40fAbipolar
LMP77165.8nV(1K)10fA(1K)50fACMOS
LT16773.2nV(1K)300fA(1K)2nAbipolar
LMP77323.0nV(1K)1.1pA(1K)1.5nAbipolar
LT18073.5nV(10K)1.5pA(10K)1uAbipolar
LT62032.9nV(10K)0.75pA(10K)1.3uAbipolar
OPA23654.5nV(100K)4fA(10K)0.2pACMOS

データシートより抜粋。値はTypicalです。各オペアンプの測定条件は同一ではありませんので、相互比較としては誤差を含む値と思ってください。

観測した現象

他にも検証したことを含めまとめておきます。

  • 擬似Lよりも、R2を付けて擬似Tにしたほうが音質が良くなる。
  • ただしオペアンプ等の非反転入力であること*1
  • この現象はT型アッテネータのR3へR2が影響することで起こっている。*2
  • R2の抵抗値はR3の2~10倍程度がよい。ただし約20倍を超えると音質が悪化する。
  • オペアンプの種類により、改善能力に差がある。

*1 : 反転入力側も効果はあると思いますが、反転入力の時点で「入力信号と入力端子間」に抵抗が付いているので意味はない。

*2 : R3が存在しなければ、R2がついていない(ジャンパした)ほうが音質が良い。

仮説

volume-T_10.png

経路Aは入力信号の通り道です。入力信号は「R1とR3の分圧で減衰され、R1とR2を直列要素、R3を並列要素」としてオペアンプに入力されます。ですので、入力信号から見たらR2の抵抗が無いほうが良いことになります。

そしてオペアンプには入力換算電圧雑音というものが存在します。入力換算電圧雑音は、オペアンプの音質に深く関わってくるものですが、それは実際にオペアンプ入力端に発生するわけではありません。ただしアンプ回路を計測してきた実感として、オペアンプはオーディオ信号などを入力して動作させるときに、アンプの動作状況によって入力端子に雑音を発生させることがあります。*3

経路Bの電圧はR2とR3に印加されます。R3には「入力信号」と「オペアンプからの雑音」の2つの信号がかかることになります。雑音信号が入力信号に対して影響を与えることで、入力信号を歪ませます。

ところがR2があると、「オペアンプからの雑音」がそのままR3に印加されることはなくなり、雑音がR2/(R2+R3)されます。つまりR2が大きければ大きいほど雑音が減ります。

一方で、経路Bには「オペアンプの入力換算電流雑音」も生じます。この雑音は、信号源のインピーダンス(R2+R3)が大きくなればなるほど大きくなります。

  1. R2が大きいほど、R3で生じる信号歪みは小さくなり、音質が向上する。
  2. R2が大きいほど、入力換算雑音による歪みと、入力信号に対するR2そのものによる歪みが大きくなり、音質が劣化する。

この推察は、R2が大きすぎてもいけないなどの観測現象をよく説明できます。音質改善効果が大きいオペアンプは、入力換算電流雑音が小さいので(一部例外)、R2よる音質劣化が少なく改善効果が大きいと考えられます。

*3 : 例えばアンプの出力が大きく切り替わるときに、電流を急激に吸い取る(吐き出す)などしたり、電源由来のノイズが入力に漏れることもあります。

検証

仮説を検証するため、T型アッテネーターに細工をし次のようにしてみました。検証はR1=2K, R2=1K, R3=3K, U1=LME49721です。

volume-T_11.png

もし仮説が正しい(オペアンプ由来の雑音が音を歪める)のならば、U2を接続したとき音質が劣化し、またその劣化の仕方はオペアンプによって異なるはずです。

まずR9=0Ω(ジャンパ)として検証しました。U2に使用した時、狙い通り音質が劣化しました。劣化が小さかった順にオペアンプを並べます。

  • LT1807
  • OPA2365
  • LME49721
  • LMP7732
  • LT1677
  • LMP7716
  • LT6203

こうして見ると、電流ノイズなどのパラメーターと相関はないことが分かります。

続いてU2を最も影響が大きかった「LT6203」に固定し、R9に抵抗を入れて検証しました。

  • R9の抵抗値が大きければ大きいほど、影響を受けない
  • R9の抵抗の種類は全く影響がない

まとめ

  • オペアンプなどの入力にボリュームがつながっている場合、入力抵抗R2を付けた方が音質が良くなる。*4
  • R2の抵抗値は、T型アッテネーターのR3の2~10倍程度が良い。
  • R2による音質改善は、オペアンプ由来のノイズ(雑音)をR3に対し印加するのを軽減する効果による。
  • オペアンプの入力換算電流雑音が小さいほど、R2の抵抗値を大きくして大きな改善効果を得られる(例外あり)。

その他、信号源インピーダンス(究極的にはR3の値)によって、音質が最適になるオペアンプが異なるということも分かりました。

擬似L型(擬似T型)アッテネーターは音量調整がしにくいのですが、R1を付けずに通常のボリューム接続にR2として抵抗を接続するだけでも音質が劇的に改善することがあります。

実際に試してみたご報告や追試、考察へのご意見、感想、ツッコミなどありましたらコメントいただければ幸いです。*5

*4 : ボリュームが通常接続の場合も、T型のR1=R3=VRとみなせるので同様です。

*5 : そういえば、良い抵抗でT型にすると十分な音質になるので、長年製作中だった電子ボリュームは辞めました。結局最大振幅と電源の問題がつきまとい、汎用性と音質を高めると大型化せざる得なかった電子ボリューム。

追記 2021/08/28

最近テストしている回路(疑似Lおよび電子ボリューム)では、総じて「R2に相当する抵抗は付けない」ほうが音質がよくなります。

当時より全体的に試聴環境が向上したいるため、差がわかりやすくなったのも一員ですが、オペアンプの種類や動作条件などにもよるのかもしれません。

導体性高分子コンデンサ聴き比べ

電解コンデンサは、OS-CONに狙いを定めてから、もっぱらOS-CONのSEPCばかり使ってきましたけど

「はたしてSEPCってそんなに音いいの?」

という疑問が湧いてきたので検証してみました。

検証

一昔前は固体電解コンデンサと言えばOS-CONしかなかったのですが、現在では導体性高分子コンデンサを各社が開発・製造しています。ですので、他社製品も検証してみようというのが今回の記事です。

pcap.jpg

  • Panasonic SEPC 2.5V 2700uF / 10mΩ / σ:0.1
  • ニチコン PLG 2.5V 2700uF / 8mΩ / σ:0.08
  • ニチコン PLG 2.5V 3900uF / 8mΩ / σ:0.08
  • 日本ケミコン PSC 2.5V 2700uF / 8mΩ / σ:0.1

いずれもほとんど同サイズ(φ10mm×12-13mm)でほぼ同性能の導体性高分子コンデンサの大容量低ESR品(8-10mΩ)になります。新しいD級ヘッドホンアンプの電源用コンデンサとして使用しました。

SEPC

これまで数多くのアンプで使用してきました。元々SANYO製で、SANYOがなくなったあとはパナソニックが製造を引き継いでいます。

OS-CONは元々有機半導体コンデンサについた名称で、現在の固体コンデンサ(導体性高分子コンデンサ)のパイオニアとなった技術です。

SPECは高分子コンデンサの中では、大容量・低ESR品になります。

os-con.png

https://industrial.panasonic.com/jp/products/capacitors/polymer-capacitors/os-con

PLG

刻印が「LG」なのでニチコンLGと呼ばれることが多いようですが、以前はLGというシリーズ名だったようですが、現在の正式名はPLGです。刻印はLGになります。高分子コンデンサの中では、SEPCと同様に大容量品に位置します。

nichicon.png

http://www.nichicon.co.jp/products/solid/solid_daia_f.htm

PSC

刻印「C」で型番がAPSCで始まるためAPSCとも呼ばれることがありますが、正式名はPSCです。高分子コンデンサの中では標準品に位置しますが、他社との比較では「大容量品」に相当します。

ni-cemi.png

https://www.chemi-con.co.jp/download/(pdf)

聴き比べ

ソケットを使わず、めずらしくすべてハンダ付けによる検証をしました。*1

PSC >> PLG 3700uF > PLG 2700uF >> SEPC

という具合でした。SEPC音良く無いじゃん!(笑)

PSCやPLGはエージングが進まないと結構酷い音がするのですが、SEPCはその点少し安定している印象でした。

*1 : エージング含め、とても時間かかりました……

追加検証

大容量品ではなく、小型品(φ6.3~8)でも検証してみました。検証回路は異なるものを使用しています。

  • SEPC 6.3V 560uF / 7mΩ
  • SEPC 16V 470uF / 10mΩ
  • PSF 16V 470uF / 10mΩ
  • PSC 6.3V 560uF / 8mΩ
  • PSC 16V 470uF / 10mΩ
  • L8 6.3V 1000uF / 9mΩ
  • S8 6.3V 680uF / 8mΩ

PSFはPSCの低ESR品です。6.3V品が流通していないため、16V品で代用しました。

L8、R8はFPCAPシーリズの1つです。FPCAPは元々富士通が開発・製造していたコンデンサのシリーズですが、現在はニチコンが買い取りニチコンより販売されています。

聴き比べ

PSF 16V > PSC 16V > PSC 6.3V > S8 > L8 > SEPC 16V ≥ SEPC 6.3V

やはりPSCの音質が優れる結果に。そして比べた時のSEPCの音の悪さ(苦笑)

ついでに、HZやMCZなどの高分子ではない従来の低Zコンデンサと比較してみましたが、SEPCより明らかに劣りました。

追加検証2 2021/07/22

KEMET_A750_16V.png

KEMETのA750というタイプの高分子コンデンサを購入したので、追試してみました。

  • PCM2704 DAC Ver2の電源部
  • ヘッドホンアンプの信号部*2

いずれもECPU 0.1uF(フィルムコン)が並列に入っています。*3

  • KEMET A750 16V 470uF / 13mΩ / A750KS477M1CAAE013
  • SEPC 16V 470uF / 10mΩ
  • PSF 16V 470uF / 10mΩ
  • PSC 16V 470uF / 10mΩ

PSF 16V > A750 16V > PSC 16V > SEPC 16V

A750とPSFは僅差です。好みでも変わってくるかと思います。音はたしかに違うのですが、帯域によって得意不得意があるような感じです。

  • 奥行き感や音の綺麗さが良い: PSF 16V
  • 低音が良い(多分): A750 16V

注意として、A750 16V 470uFとPSF 16V 470uFはスペックこそ一緒ですが、A750が直径8mm、PSFが直径10mmとPSFの方が大きく、そしてESR低くなっています。固体コンは、同容量同電圧でも「大きさが大きくなるほどESRが低く性能が良くなる(音が良くなる)」ことが多く、このことからA750が不利な比較とも言えます。

追加検証2-2

同サイズ、同容量、同耐圧と条件を揃えて、A750とPSFを比較しました。

  • A750 6.3V 820uF / A750EM827M0JAAE008
  • PSF 6.3V 820uF / APSF6R3ELL821MF08S

比較結果。

A750 6.3V 820uF > PSF 6.3V 820uF

サイズを揃えてしまえば、A750に軍配が上がるようです。DigikeyやMouserで買いやすいことを考慮すると、これはなかなか良さそうです。

*2 : 低電圧ヘッドホンアンプ Ver3 (op-dbuf3)で言うところのC3/C4相当。

*3 : 並列のフィルムコンを入れないないほうが差が顕著に現れますが、普段からフィルムコンを並列に入れるので普段の状況でテストしました。

まとめ

  • 導体性高分子コンデンサも、種類によって音が違う
  • SPECは音質よくない
  • 低ESRはだいたい正義

これからはKEMETとPSFをメインで使っていこうかなと思っています。

補足

SEPCの性能が悪いわけではないのでそれだけは誤解しないでください。これは性能テストではなくて音質テストです。性能テストならば、もっと全く別の評価をする必要があります。

また空間再現能力を最重要視してテストしていますが、音質に関する要素は人それぞれ好みがあり、ましてコンデンサはオーデオ的な音色の差が出やすい素子ですので、その点はご理解願います。

薄膜チップ抵抗を含めた、抵抗の聴き比べ(音質再評価)

もう9年前になる抵抗の音質を正しく評価するの記事以来、まともに抵抗の音質評価をしていなかったので、古い記事のアップデートも兼ねてチップ抵抗を含めた音質の再評価をしてみました。

抵抗の音質について分かっていること

経験則から以下のことが分かっています。

  • 抵抗の構造や素材によって音質が異なる
  • 電流雑音係数はほとんど影響がない
  • 同シリーズならば、温度係数(ppm)が低いほど音質が良い
  • 同シリーズならば、ワット数(W)が大きいほど音質が良い
    • 今回の結果から必ずしも成り立たないようです。
  • 信号に対して直列に入る要素は影響が大きく、並列に入る要素は影響が小さい(詳細

そしてよくよく考えてみると、音質が良い抵抗は温度係数も低いことが分かっています(ただし逆は必ずしも成り立たない)。

  • 音質の良い金属皮膜抵抗 15~25ppm
  • 無誘導巻線抵抗 20~50ppm(ワット数大きめ)
  • 金属箔抵抗 0.5~2.5ppm

リード抵抗などの音質再評価

比較方法として、D級ヘッドホンアンプのNFB抵抗R3の2KΩを変更して聴き比べてみました。空間再現能力を再優先で評価しています。

pwm-hpa2-main.png

差し替えた直後は音が安定しないので、すべてしばらく鳴らしこんでから試聴しています。

LGMFSA 金属皮膜 / 精度0.4% / 15ppm / 0.6W / 42円

最近のメインです。bispaのLGMFSAをよく使っていますので、これを目安に評価したいと思います。

LGMFS50 金属皮膜 / 精度0.5% / 25ppm / 0.5W / 26円

LGMFSAより安価ですが、音質は劣ります。とはいっても、普通アンプ回路を作るには安価で十分な音質だと思います。0.25W品のLGMFS25は0.5W品より音質が少し劣ります。

Ohmite WNA(無誘導巻線)/ 精度1% / 50-90ppm / 0.5W / 200円

2Kがないので、100Ω(WNA100FET)で比較しました。LGMFSAよりWNAの方が上だと思っていたのですが、空間再現はLGMFSAのほうが明らかに上でした。

同じくOhmite無誘導巻線抵抗のWNC 1K(WNC1K0FET/2W)とも比較してみましたが、同様にLGMFSAのほうが空間再現能力は上でした。ちなみにLGMFSと比べると、Ohmite無誘導巻線のほうが音質は優れています。

ただ、無誘導巻線のほうが音が元気でLGMFSAは良く言えば少しおとなしい感じです。悪く言えばWNAに比べLGMFSAは若干音が曇ります。いわゆる金皮の音といってこれを嫌う人も世の中にはいるようですが、(無誘導巻線と比べて)歪まないからおとなしく感じるだけのような気も。

昔の音質比較で無誘導巻線(NS-2B)は「直結と差が分からない」と書きましたが、現在の再生環境だとWNAに関しては決してそんなことはなく奥行き感が失われます。

MF1/4CC 精度1% / 50ppm / 0.25W / 1円

よくある普通の金属皮膜抵抗です。そこまで悪くはないのですが、LGMFSAと比べると音が平明的でガヤガヤします。*1

カーボン抵抗 精度5% / 50ppm / 0.25W / 1円未満

秋月で購入したどこにでもあるカーボン抵抗です。MF1/4CC以上に音がガヤガヤし平面的な音になります。

チップカーボン 厚膜 / 精度5% / 200ppm / 0.1W / 1円未満

大昔にリールをカットしてもらったもので型番はメモってないのですが、おそらくERJ3GEYJ222Vあたりです。リードカーボン抵抗よりもさらに酷く、のっぺりとした平らな音がします。

ここまでのまとめ

LGMFSA > Ohmite無誘導巻線 > LGMFS50 >> その他

*1 : この抵抗からチップカーボンまで2.2Kを使用しました。

薄膜チップ抵抗の音質評価

一口にチップ抵抗といっても色々ありますが、音質に定評があり値段が高すぎない*2薄膜チップ抵抗をメインに試聴してみました。2012サイズに絞って製品をピックアップしています。なるべく温度係数低いものを中心に選んでいます。

ERA-6A 精度0.1% / 10-25ppm / 0.125W / 64-141円

LGMFSAよりもクリアに鳴り奥行きも良いです。±10ppmより±15ppmが高いという不思議な値段設定になってます。

6ARB(10ppm) > 6APB(15ppm) > 6AEB(25ppm) > LGMFSA(15ppm)

音質は「同シリーズなら温度特性が良いほうが音が良い」という法則通りになりました。

TNPU 精度0.1% / 5ppm / 0.125W / 297円

無誘導巻線抵抗で有名なDale製の薄膜抵抗です。5ppmなのでいいお値段しますが、それだけあってLGMFSAより明瞭。

TNPW 精度0.1% / 15ppm / 0.125W / 106円

TNPUより温度特性は劣りますが、高性能な薄膜抵抗です。しかしながら、音は明瞭さに欠け曇ってしまいます。データシートを読むと素材にセラミックを使用しているようなので、それが原因かも知れません。

RNCF 精度0.01% / 5ppm / 0.125W / 256円

0.01%という高精度で温度特性も優れた抵抗です。しかし、音が少し平面的になってしまいます(奥行きが少し悪化する)。

PLT 精度0.05% / 5ppm / 0.25W / 508円

Vishayの薄膜抵抗です。他と違い定格1/4Wになります。値段にびっくりしますが、音質もびっくり。LGMFSAよりも明らかによく(聴き比べてすぐに分かるレベル)、明瞭で奥行きの優れた音になります。

金属箔抵抗より安いとはいえ、値段が高過ぎるのと250Ωからしか値がないのが難点です。

PATT 精度0.1% / 25ppm / 0.25W / 164円

PLTほどではありませんが、LGMFSAよりクリアで明瞭な音です。125℃対応品。

PAT 精度0.1% / 25ppm / 0.25W / 116円

PATとほぼ同じ性能でこちらは通常温度版でちょっとお安い。しかも音質はPATTより上でPLTにかなり近い音です。PLTがちょっとだけ上という感じ。

値段や抵抗値(PLTは最小が250Ω)を考えたらPAT断然買いです。

RT0805 精度0.1% / 25ppm / 0.125W / 47円

差し替えてしばらくは「おおっ」という感じの音がするのですが、しばらく鳴らしていると音質が悪化してLGMFSAよりも奥行きのない鳴り方になります。風を当てて冷ますと元に戻るので熱の影響のようです。

RN73 精度0.1% / 10ppm / 0.1W / 72円

値段は安いのに大変クリアで明瞭な音がします。LGMFSAより上です。

RR1220 精度0.5% / 25ppm / 0.1W / 13円

LGMFSAより少し明瞭です。慎重に聴き比べないと分からないレベル。

RG2012 精度0.1-0.05% / 10-25ppm / 0.1W / 67-124円

RRは中国製ですが、この2つは日本製。同じ精度のは売ってなかったので、こうなってしまいました。LGMFSAよりクリアに鳴ります。

RG2012N(10ppm) > LGMFSA(15ppm) > RG2012P(25ppm)

RG2012Pは差し替えた瞬間に聴いただけでも平面的な鳴り方でイマイチでした。

2012まとめ

ほとんどがLGMFSAより音質が優れるという意外な結果になりました。

  1. PLT0805 5ppm 508円
  2. PAT0805 25ppm 116円
  3. PATT0805 25ppm 164円
  4. RN73 10ppm 72円
  5. ERA-6ARB 10ppm 131円
  6. TNPU0805 5ppm 297円
  7. ERA-6APB 15ppm 146円
  8. RG2012N 10ppm 124円
  9. ERA-6AEB 25ppm 64円
  10. RR1220P 25ppm 13円(ERA-6AEBとほとんど一緒)
  11. LGMFSA
  12. その他の薄膜チップ

圧倒的な音質はPLT0805とPAT0805です。聴き比べてもすぐに分かるレベルなので、この2つは群を抜いてます。その代わり、PLTはお値段も圧倒的ですが、肉薄する音質のPATなら値段もそこそこ抵抗値も多いのでおすすめ。

RN73以下は順位を2つぐらい飛ばさないと明確な差は分かりにくい感じの群雄割拠状態ですが、それでもRN73シリーズのコストパフォーマンスには驚きです*3。KOAに似た型番の抵抗があるようですが、試聴したのは「TE Connectivity」ですのでご注意ください。

更にコスパを求めるなら、RR1220Pの25ppmでも良いとは思います。

*2 : 音質に定評のあるチップ金属箔抵抗は高すぎるので対象から外しました。

*3 : 記事書いてるうちに50円から72円に値上げ(苦笑)

1608薄膜チップ抵抗の音質評価

スルーホール抵抗(リード抵抗)では同シリーズならワット数の大きいものが音が良いことが多いのですが、チップ抵抗ではどうなるのか検証してみしまた。

PATT0603 精度0.1% / 25ppm / 0.15W / 162円

ほぼ同じ音ですが、少しだけ1608サイズの方が上でした。

PAT0603 精度0.1% / 25ppm / 0.15W / 111円

明らかに1608サイズの方が上でした。

RR0816P 精度0.5% / 25ppm / 0.063W / 12円

差が微妙なのですが、何度試聴しても何時間かエージングしても2012サイズのほうが音が良い印象でした。

RG1608N 精度0.05% / 10ppm / 0.1W / 106円

ほとんど差がないけども、RG1608Nのほうがいいのかな?ぐらいでした。

ERA-3ARB 精度0.1% / 10ppm / 0.1W / 122円

明らかに1608サイズのほうか音質が上でした。

RP73 精度0.1% / 25ppm / 0.167W / 71円

同一品種や同一仕様がなかったので同一メーカー比較です。RP73の音が悪かったです。というかそもそも、LGMFSAより音悪かった(苦笑)。1608唯一の無かったことに。

RNCS0603 精度0.1% / 25ppm / 0.063W / 60円

同一メーカーですが物は全然違います(苦笑)。RNCFの高精度抵抗は音悪かったので、RNCSが上でした。

AT0603 精度0.1% / 25ppm / 0.1W / 51円

安いので買ってみたのですが、刺した瞬間「これは格が違いそう」という音がしまして、案の定エージングが進めば進むほどどんどん音質が向上していきました。とても優れた空間再現能力です。

MCT06030 精度1% / 50ppm / 0.125W / 20円

追試。1608サイズを網羅すべく買ってみたのですが、50ppmということもあるのか、LGMFSAより音質が劣りました。

RT0603 精度0.5% / 25ppm / 0.1W / 26円

追試。AT0603は自動車向けなので、通常品を買ってみました。他の抵抗は、自動車向けのほうが音質悪いので。この抵抗も、通常品の方が音が良かった。

RT0805の音が悪かったので1608版は買わなかったのですが、最初から買っておけばよかった。こんなに音が違うとは……。*4

RT0603 精度0.1% / 10ppm / 0.1W / 76円

追試。10ppm版です。25ppm版より音いいけど、他の抵抗のppmの差ほど音質差はないイメージです。

VKMF1608 精度0.5% / 25ppm / 0.0625W / 10円

追試。Bispaのオリジナル抵抗VMFKです。RG1608Nよりは上ですね。比べると、RG1608はややどんよりした音に聞こえます。

1608まとめ

  1. RT0603 10ppm 76円
  2. RT0603 25ppm 26円
  3. AT0603 25ppm 51円
  4. ERA-3ARB 10ppm 122円
  5. PAT0603 25ppm 111円
  6. PATT0603 25ppm 162円
  7. VKMF1608 25ppm 10円
  8. RG1608N 10ppm 106円
  9. RNCS0603 25ppm 60円
  10. LGMFSA
  11. その他(RR含む)

上位5つはどれを選んでもかなり良いです。その5つの中でも、追試したRT0603の2種と、その下3つは結構はっきりとした差があります。RT0603は他の抵抗と違い、10ppmと25ppmの音質差が非常に小さく、値段を考えると25ppmで十分だと思います。

2012サイズのERA-6ARBはそこまででもなっかたのですが、ERA-3ARBは圧倒的でした。でもエージングが進んでAT0603がそれを追い越してしまいました(笑)

PATT0603とVKMF1608間にそれなりに差があります。

*4 : AT0603を約1万円分注文してしまったんですが困った(苦笑)

おすすめ抵抗ランキング

  1. (1608)RT0603 0.1% / 10ppm / 0.1W / 76円 / 5~330KΩ
  2. (1608)RT0603 0.5% / 25ppm / 0.1W / 26円 / 2~1MΩ
  3. (2012)PLT0805 0.05% / 5ppm / 0.25W / 508円 / 250~260KΩ
  4. (1608)ERA-3ARB 0.1% / 10ppm / 0.1W / 122円 / 1K~100KΩ

RT0603は値も在庫も比較的豊富で、仕様上では1Ω~1MΩまで存在します。温度係数による音質差がそこまでではないので、通常は25ppmで十分だと思います。

一部に人気のススムの抵抗ですが、それより安くて音の良い抵抗がたくさんあるので買う理由が全くありません。

  • リード品:LGMFSA 0.4% / 15ppm / 0.6W / 42円

値段を考えても大きさ*5を考えても音質面でもLGMFSA以外を選択する理由がほとんどありません。抵抗値が10~1MΩまで揃っているのもありがたいです。

注意

抵抗には同じシリーズでも細かい型番で温度特性(音質)が異なるものが存在します。温度特性をよく確認してから購入してください。

*5 : いわゆる1/4W抵抗サイズ

まとめ

  • 薄膜チップ抵抗はだいたい音質が良い。
  • 薄膜チップ抵抗も同一シリーズならば温度特性が良いほど音質が良い
  • 抵抗値の精度は音質に影響しない。
  • リード抵抗のときに微妙だったススムRGとRRは、予想通り大したことない。
  • 薄膜チップ抵抗はサイズが小さいほど音が良くなる傾向がある。*6

何度も書きますが同シリーズでも温度特性が異なる抵抗は音質が別物です。聴き比べる際は特に注意してください。

後日、RT0603を10~47KΩで揃えて長年常用しています。

*6 : ちなみにRN73の100Ω/10ppmで2012と1005の比較をしたところ、後者のほう明らかに良かったです。

1005サイズの追試 2023/01/06

何年も経ってしまいましたが、RT0603とRT0402で比較してみました。同一アンプの入力抵抗として、同じ10KΩを左右で変えての比較。

サイズ以外同一スペックです。予想通り、RT0402(1005サイズ)のほうが良い音でした。1005サイズは手付けが少々面倒なのと、そこまで大きな差ではないので、通常使う分には1608で十分かと思います。

抵抗体が変わってるとは思えないので、抵抗体そのものより、外装(抵抗体を貼り付けているベース)の影響が大きいのかもしれませんね。リード抵抗とかでも、被膜の影響大きいとききますし。

参考

高音質アッテネータ①抵抗の音 : 通電してみんべ
薄膜チップ抵抗、金属箔抵抗などの音質評価をしている貴重なブログです。1608サイズのほうが音が良いという貴重な発見をされています。

2016/02/07(日)抵抗ノイズを測定したかった

抵抗のパラメーターを「抵抗値」と「消費ワット数」しかないと思ってる人が多そうなので、昔からの課題にしている「抵抗による音質の差を目で見える形にする」って方法がないかよく考えたりしてました。

それで最近組んでみたのがこんな回路。

noise_amp.jpg

音声信号を抵抗(R2,R3)に流したとき、どのような差が出てくるか約100倍に拡大して表示してみようという回路です。R10には実際には可変抵抗を使い、最後の抵抗2つで元信号との差を取って見てみようという回路でした。


しかし実際に測定してみると、差が小さすぎてぜんぜん拉致があきません(汗)。仕方ないので以前製作した差動プリアンプを使ってさらに100倍に増幅して観測。ようやくオシロスコープ表示できるように。

でもゲイン誤差やオペアンプによる歪のほうが大きいのか、カーボン抵抗とLGMFS(音質の良い金皮)で比べても観測できる誤差はありませんでした。

ゲインを変更 2016/02/09

測定したい抵抗で101分の1(1K/10)に落としてからオペアンプで101倍して、反転した信号と抵抗+半固定抵抗で合成して差を作り、それを更に100倍する回路に変更しました。

noise-amp.jpg

うまく行ったわけではないので回路図は省略します(苦笑)

ここに100Hzのsin波を入れてやります。

NA-sin100.png

これを半固定抵抗で調整してゲイン誤差を最小にします。

NA-sin2.png

これで測定準備完了。試しにホワイトノイズを再生してみます。

NA-white.png

実際に測定してみる

高周波ノイズが多すぎて大変なので、オシロスコープで2.9kHzフィルタをかけた状態で測定しました。

曲冒頭(秋月カーボン)

test1-r1.png

曲冒頭(LGMFS)

test1-r2.png

15秒ぐらい(秋月カーボン)

test2-r1.png

15秒ぐらい(LGMFS)

test2-r2.png

画像を重ねて切り替えてみると、少し秋月のほうがノイズが多いかなと思えなくはないですが、測定方法を考えると残念ながら有意な差とはいいにくいレベルです(苦笑)

いい方法思いついたら続報書きますが、このままお蔵入りの線が濃厚です(汗)

最近の調べ物

Raspberry PiのI2Sまわりを調べてるんですが、記事にして技術情報を公開している人少ないですね。アンプ系とかでもそうですけど。実物あります、売ってます。うーん、そりゃ商売としては正しいでしょうけども……。みんなケチだな(個人の感想です)。*1

頒布物は、基本的に基板ぐらいしか価値がないと思ってるので、このブログは技術情報はむしろ積極的に公開していくスタイル。その方がいろんな反応あって面白いので!(笑)

でも最近は、そもそも泥臭いことするエンジニア減ったよなーと思う今日この頃だったりもしました。

*1 : とはいえ、中にはものすごく泥臭い情報を記述している方もいて、とても参考になってありがたい限り。