ボリュームの音質改善。L型とT型アッテネータ

はてブ数 2016/06/22電子::アンプ

はじめに

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抵抗の場所と音質の謎で述べたとおり、抵抗には「音質への影響が大きい要素」と「音質への影響が比較的小さい要素」があります。

  • 直列要素は影響が大きい(図のR1)
  • 並列要素は影響が小さい(図のR2)

ボリュームは、可変抵抗という物理的制約上音質が良いものを利用しても固定抵抗に比べたら大きく劣ります。擬似Lアッテネーターはこの特性を利用して、ボリュームの音質を改善する方法です。

不思議な現象

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今回の実験回路です。VRは10KΩに固定して話を進めます。

R1とVRは擬似L型アッテネーターを構成しています。R1は2K~4.7KΩぐらいの抵抗を利用します(入力の大きさによる)。

R2は入力抵抗です。直列要素ですので抵抗があればあるだけ音質が劣化するはずでした。実際、今まで製作してきたアンプでは、R2は接続せず、常に0Ωにしています。

しかしこれだけでは理解できない現象に出くわしました。この回路では、R2を接続したほうが音が良かったのです

最初は2KΩぐらいで試したのですが、抵抗値をあげるとより音が良くなります。具体的には、R2として10KΩぐらいを接続すると一番音質が良くなりました。22KΩでは、オペアンプ入力端子のインピーダンスが上昇しすぎるのか、音質が低下し始めました。

つまり擬似Lアッテネータよりも、擬似Tアッテネーターのほうが音が良かったのです。

本当に音質を改善しているのか?

これまでの状況では、単に「オペアンプにとって入力インピーダンスがほどほどにあると音質が良くなる」という可能性を否定できませんので、きちんとしたT型アッテネーター回路を製作して検証しました。

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R1=2K(LGMFSA)、R3=1K(秋月カーボン抵抗)として、R2(LGMFS)を0Ωと10KΩで比較してみました。明らかにR2(LGMFS)を付けた方が音質が良くなります。

今度は逆にR3をLGMFSの1Kに変更した上で、R2を秋月カーボン抵抗の0Ωと10KΩで比較してみました。さすがに微妙なところですが、この場合もR2を付けた方が音質が良くなりました。

試しにR3をが切断してみると、R2の種類によらず存在しない(0Ωの)ほうが音質が良くなりました。よってこの現象は「R2とR3の何らかの相互作用によるもの」と考えられます。

また「R2の抵抗の種類によらず音質改善効果があり」、音質の良い抵抗のほうが効果が高い言えます。

オペアンプでない場合

昔、抵抗の音質をチェックしたときは、FETバッファアンプを使用しました。このとき、R2に相当する抵抗は入れない状態が一番良かったのですが、本当にそうなのか再度確認してみました。

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結論から言うと、R3にボリューム(2CP601)を付けた状態で、手持ち抵抗でもっとも音質が優れるRT0603をR2につけても音質が劣化しました。

つまり、この現象は「オペアンプの非反転入力に接続したときに改善効果があるが、FETバッファアンプのような構成では効果がない」ということが分かりました。

音質改善能力の差

さらに検証してみると、R2による音質改善はオペアンプによって大きく異ることが分かりました。改善が大きかった順に並べます。

オペアンプ電圧ノイズ電流ノイズ入力バイアス種類
LME497214nV(1K)4fA(10K)40fAbipolar
LMP77165.8nV(1K)10fA(1K)50fACMOS
LT16773.2nV(1K)300fA(1K)2nAbipolar
LMP77323.0nV(1K)1.1pA(1K)1.5nAbipolar
LT18073.5nV(10K)1.5pA(10K)1uAbipolar
LT62032.9nV(10K)0.75pA(10K)1.3uAbipolar
OPA23654.5nV(100K)4fA(10K)0.2pACMOS

データシートより抜粋。値はTypicalです。各オペアンプの測定条件は同一ではありませんので、相互比較としては誤差を含む値と思ってください。

観測した現象

他にも検証したことを含めまとめておきます。

  • 擬似Lよりも、R2を付けて擬似Tにしたほうが音質が良くなる。
  • ただしオペアンプ等の非反転入力であること*1
  • この現象はT型アッテネータのR3へR2が影響することで起こっている。*2
  • R2の抵抗値はR3の2~10倍程度がよい。ただし約20倍を超えると音質が悪化する。
  • オペアンプの種類により、改善能力に差がある。

*1 : 反転入力側も効果はあると思いますが、反転入力の時点で「入力信号と入力端子間」に抵抗が付いているので意味はない。

*2 : R3が存在しなければ、R2がついていない(ジャンパした)ほうが音質が良い。

仮説

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経路Aは入力信号の通り道です。入力信号は「R1とR3の分圧で減衰され、R1とR2を直列要素、R3を並列要素」としてオペアンプに入力されます。ですので、入力信号から見たらR2の抵抗が無いほうが良いことになります。

そしてオペアンプには入力換算電圧雑音というものが存在します。入力換算電圧雑音は、オペアンプの音質に深く関わってくるものですが、それは実際にオペアンプ入力端に発生するわけではありません。ただしアンプ回路を計測してきた実感として、オペアンプはオーディオ信号などを入力して動作させるときに、アンプの動作状況によって入力端子に雑音を発生させることがあります。*3

経路Bの電圧はR2とR3に印加されます。R3には「入力信号」と「オペアンプからの雑音」の2つの信号がかかることになります。雑音信号が入力信号に対して影響を与えることで、入力信号を歪ませます。

ところがR2があると、「オペアンプからの雑音」がそのままR3に印加されることはなくなり、雑音がR2/(R2+R3)されます。つまりR2が大きければ大きいほど雑音が減ります。

一方で、経路Bには「オペアンプの入力換算電流雑音」も生じます。この雑音は、信号源のインピーダンス(R2+R3)が大きくなればなるほど大きくなります。

  1. R2が大きいほど、R3で生じる信号歪みは小さくなり、音質が向上する。
  2. R2が大きいほど、入力換算雑音による歪みと、入力信号に対するR2そのものによる歪みが大きくなり、音質が劣化する。

この推察は、R2が大きすぎてもいけないなどの観測現象をよく説明できます。音質改善効果が大きいオペアンプは、入力換算電流雑音が小さいので(一部例外)、R2よる音質劣化が少なく改善効果が大きいと考えられます。

*3 : 例えばアンプの出力が大きく切り替わるときに、電流を急激に吸い取る(吐き出す)などしたり、電源由来のノイズが入力に漏れることもあります。

検証

仮説を検証するため、T型アッテネーターに細工をし次のようにしてみました。検証はR1=2K, R2=1K, R3=3K, U1=LME49721です。

volume-T_11.png

もし仮説が正しい(オペアンプ由来の雑音が音を歪める)のならば、U2を接続したとき音質が劣化し、またその劣化の仕方はオペアンプによって異なるはずです。

まずR9=0Ω(ジャンパ)として検証しました。U2に使用した時、狙い通り音質が劣化しました。劣化が小さかった順にオペアンプを並べます。

  • LT1807
  • OPA2365
  • LME49721
  • LMP7732
  • LT1677
  • LMP7716
  • LT6203

こうして見ると、電流ノイズなどのパラメーターと相関はないことが分かります。

続いてU2を最も影響が大きかった「LT6203」に固定し、R9に抵抗を入れて検証しました。

  • R9の抵抗値が大きければ大きいほど、影響を受けない
  • R9の抵抗の種類は全く影響がない

まとめ

  • オペアンプなどの入力にボリュームがつながっている場合、入力抵抗R2を付けた方が音質が良くなる。*4
  • R2の抵抗値は、T型アッテネーターのR3の2~10倍程度が良い。
  • R2による音質改善は、オペアンプ由来のノイズ(雑音)をR3に対し印加するのを軽減する効果による。
  • オペアンプの入力換算電流雑音が小さいほど、R2の抵抗値を大きくして大きな改善効果を得られる(例外あり)。

その他、信号源インピーダンス(究極的にはR3の値)によって、音質が最適になるオペアンプが異なるということも分かりました。

擬似L型(擬似T型)アッテネーターは音量調整がしにくいのですが、R1を付けずに通常のボリューム接続にR2として抵抗を接続するだけでも音質が劇的に改善することがあります。

実際に試してみたご報告や追試、考察へのご意見、感想、ツッコミなどありましたらコメントいただければ幸いです。*5

*4 : ボリュームが通常接続の場合も、T型のR1=R3=VRとみなせるので同様です。

*5 : そういえば、良い抵抗でT型にすると十分な音質になるので、長年製作中だった電子ボリュームは辞めました。結局最大振幅と電源の問題がつきまとい、汎用性と音質を高めると大型化せざる得なかった電子ボリューム。

追記 2021/08/28

最近テストしている回路(疑似Lおよび電子ボリューム)では、総じて「R2に相当する抵抗は付けない」ほうが音質がよくなります。

当時より全体的に試聴環境が向上したいるため、差がわかりやすくなったのも一員ですが、オペアンプの種類や動作条件などにもよるのかもしれません。