CMoyヘッドホンアンプで検証するオペアンプの発振

はてブ数 2007/11/26電子::HPA

Chu-Moyヘッドホンアンプを使ってオペアンプの安定性を検証してみました。

※この記事でsin波に対して単に電圧といった場合、0-p(ゼロピーク)電圧を示します。例えば、2Vのsin 1kHzは v(t) = 2sin(2π×1000t)です。

使用した回路

opamp-test.gif

  • ゲインは+1倍です。
  • 出力には32Ωのイヤホンを付けました。
  • Lチャンネルだけテストし、Rチャンネルの入力はGNDに落としました。

1倍アンプは発振しやすいので実用としては作らないでください。今回はあくまでテストのためです。

実験

「出力電圧が0-p電圧で1Vになるよう」に調整して入力しました。(ボリュームに対しては1.6Vの入力を与えました)。

電源電圧とクリップ

いわゆるオーディオ用オペアンプを用いて、波形がクリップする様子を示します。

opamp1V/8V電源1V/12V電源1.5V/8V電源1.5V/12V電源
NJM4580
NJM4580_1v.jpg
NJM4580_1v12v.jpg
NJM4580_1.5v.jpg
NJM4580_1.5v12v.jpg
NJM2114
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NJM2114_1v12v.jpg
NJM2114_1.5v.jpg
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NE5532
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OPA2134
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OPA2134_1v12v.jpg
OPA2134_1.5v.jpg
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OPA2604
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OPA2604_1v12v.jpg
OPA2604_1.5v.jpg
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LM4562
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LM4562_1v12v.jpg
LM4562_1.5v.jpg
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AD8066
AD8066_1v.jpg
AD8066_1v12v.jpg
AD8066_1.5v.jpg
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波形が歪まずに(寄生発振を含む)出力できるおよその限界電圧も測定しました。電源電圧は8Vです。ついでにオープンループゲイン等ものせておきます。*1

オペアンプゲイン帯域スルーレート最大出力電流出力限界
NJM4580110dB15MHz5V/us60mA1.3V
NJM2114100dB3MHz15V/us50mA1.6V
NE5532100dB10MHz8V/us38mA1.6V
OPA2134120dB8MHz20V/us35mA0.8V
OPA2604100dB20MHz25V/us35mA0.7V
LM4562140dB55MHz20V/us26mA-*2
AD8066113dB120MHz180V/us35mA1.4V

*1 : データシートから抜粋。必ずしも同じものを示しているは限らないので参考程度に。

*2 : 寄生発振のため、そのままでは測定不可能。Rf=10kとしゲインを5.5倍にすれば、1.2V程度まで出力できました。それを越えてもクリップするだけです。

評価

NJM4580, NJM2114, NE5532

安定したICです。よく使われるのも頷けます。音質を評価されることは少ないようですが、回路の安定という意味では良いICです。

OPA2134, OPA2604

音質が良いと言われさかんに使われるICですが、電源電圧に対する出力の余裕がとても少なくなっています。音楽再生時1Vも出力したら(普通は)うくさくて聞いていられないという感じですから問題ないと言えば問題ないのでしょうが、低能率ヘッドホン駆動時は辛くなります(電圧不足になります)。よく言われるOPA2604は電源電圧が8V(±4V)では足りないの足りないとはこういうことです。

いろいろいじった感じでは、OPA2134の方がやや回路などの影響で発振しやすいものの、共に(クリップさえ起きなければ)安定した(発振しにくい)ICです。

LM4562

ゲインが140dBもあり発振しやすいICです。オシロの写真ですべて発振していますが、これは電源不足などとは関係なく単に帰還のかけすぎです。

Rf=0Ω(1倍アンプ)のままでは発振してしまい、まともに使うことができません。CMoy型でこのICを使用する場合は、最低でも5~6倍(Rf=10kΩ)程度のゲインを設定するべきです。実際、Rf=10k(5.5倍)のとき電源8Vで1.2Vまで出力できました。その先はクリップするだけでしたので、ゲイン設定をきちんと行えば安定して使えるようです。また、負荷インピーダンスを50Ω程度にしても使えるようです。*3

ネット上を見ると回路を調べず(増幅率も調べず)単純にLM4562に載せ替えてる方が居るようですが、本当に使いこなせてるのかとやや疑問を感じます。ループ外出力抵抗なし、+1倍動作ではまともに動かないでしょう。

AD8066

広帯域、高スルーレートオペアンプですが、思ったほど発振しません。思ったほどというのは、写真のとおり「ゲイン1倍で出力を大きくとっても」という意味ですが、回路の作り(設計)が甘いと発振する印象があります。OPA2604等の電源電圧不足による発振を除けば、それよりも発振しやすくLM4562よりは若干安定という感じです。

このICも1倍で使うのは無理があります。ケーブル程度の容量負荷(56pF程度)で簡単に発振します。最低でも5~6倍で使用すべきです(もしくはきちんとループ外に数~10Ωの抵抗を付ける)。

*3 : L成分とR成分があるので純粋に50Ωなら大丈夫とは言えません。

まとめ

オペアンプの主な発振要因は2つで、電源電圧不足による発振と帰還のかけすぎ(+容量性負荷)による発振のようです。今回ためした中では、OPA系は前者によって発振しやすく、AD8066/LM4562は後者によって発振しやすいようです*4。ソケットの直下にフィルムコンを付けると一応安定しましたが、どちらにしろ+1倍動作はお勧めできません。高性能オペアンプでは出力抵抗を付けましょう

追試をしたときは上のリストに追加しようと思いますが、OPA627とか高すぎですのでその辺は多分しない予定。

少々技術が要りますが、(ヘッドホンアンプではなく信号ラインアンプとして)使いこなせればLM4562は良さそうです。AD8066も好みですが。

追記

LM4562などは「unity gain stable」と書かれていますが、これは出力抵抗をきちんと付けた場合のお話です。安定動作のために出力抵抗はきちんと付けた方が良いです

*4 : 広帯域オペアンプなので当然と言えば当然ですが