レールスプリッタ入門 ~ 仮想グランドのあれこれ

はてブ数 2011/09/28 電子読み物

※本稿はC79でのstrvさんのサークル同人誌への寄稿原稿を元に書き起こしました。

寄稿原稿のpdf版 : strv-c79-nabe.pdf


レールスプリッタとは

一般的に交流信号を増幅するアンプ回路を作るとき、正負電源が必要になります。簡単に言うと電池が複数必要になります。

Chu-Moyに代表される簡易ヘッドホンアンプでは、9V電池1つで動作させるために、9Vの電圧を±4.5Vに切り分けて使用しています。このときの中間地点を仮想GNDといい、1つの電源をプラスマイナスの電源に切り分けることをレールスプリットといいます。

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本来のGNDは電池のマイナス側でありますが、仮想GNDをあたかもGNDのように使用し、1つの電源を正負電源に分割します。

オペアンプで、与えられた電源一杯ぐらいまで出力できるものをフルスイングオペアンプやレールツーレール(Rail to Rail)オペアンプといいますが、同じ意味のレールです。電源を線路のような2本のレールに見立てると、回路はこのレールの範囲内でのみ動作します。レールの範囲内いっぱいいっぱいまで動かすことができるよーというのがレールツーレールです。

レールスプリットというのは、このレールを中央で分割(Split/スプリット)して正負2つの電源として使いますよということです。

レールスプリットを実現する回路やICをレールスプリッタ(回路)といいますが、色々な方法がありどれも万能ではありません。

この記事ではよくあるレールスプリッタとその特徴を紹介していきます。

レールスプリッタの必要性

そもそも単純に電池を2つ用意すればいいだけじゃないかと言われてしまいがちのレールスプリッタですが、そうも言えない事情もあります。

  1. 電池が増えることで単純に邪魔
  2. AC(AC-DC)アダプタなら2つ必要
  3. もしくはトランスを内蔵

単3や単4電池なら4本内蔵という手もなくはないですが、006P(9V電池)やリチウムイオン電池を2つ入れることはあまりやりたくはありませんし、AC-DCアダプタ2つというのは相当困りものです。最後のトランス内蔵は、慣れないと厄介だし危険です。

もちろんDCDCと呼ばれる別の方法もあるのですが、お手軽に、そして小型に正負電源を得てアンプを作りたいとなるとレールスプリッタ一択になってしまうのは致し方ないところがあります。

単純なレールスプリッタ

前置きが長くなってしまいましたが、一番単純なレールスプリッタ回路を示します。

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Chu-Moy型などで使われる抵抗分圧によるスプリッタ回路です。GNDと書いてはありますが、これが仮想GNDになります。コンデンサの値は470uFになっていますが、470uFよりも1000uFや1500uFなどの大きな値のほうが仮想GNDの電圧が安定します。一般的には最低でも470uF程度は入れてほしいところです(これらは以降の回路でも同様です。以降の回路では触れずに省略しています)。

抵抗による分圧なので簡単ではあるのですが、電圧の安定度があまりよくありません。R1,R2の値を470Ω等に下げれば安定度が増しますが、それでは常時10mAレールスプリッタに消費することになりますので電池を早く消耗してしまいます。

不安定な仮想GND

なぜ仮想GNDは安定性が問題になるのか。そもそも安定しないと何が起こるのでしょうか。

アンプが扱う信号は交流信号です。交流信号の定義は色々と可能ですが、GNDに対してプラス側にもマイナス側にも電流が流れることが交流信号の特徴と言えます。別の言い方をすればGNDへ電流が流れこむこともあるしGNDから外に電流が流れ出すこともあります。

例えば先程のように抵抗分圧された回路の仮想GNDに電流が流れこむと少しだけ電位が上昇します。逆に仮想GNDから電流が流れだすと少しだけ電位が下がります。

rail_split-vgnd.png

これが仮想GNDの変動です。この図では0Vを基準として見ているために仮想GNDの電位(電圧)が揺らいでいると言うことができますが通常の回路はGNDを基準として動作します。基準である仮想GNDがすこしばかり変動したところで何か問題が起きるのでしょうか?

仮想GNDを基準とする回路では、仮想GND電位のゆらぎは電源電圧のゆらぎとして観測されます。通常の両電源回路でも電源電圧はゆらぐものですが、それよりも10倍ぐらい大きな揺らぎが起こってしまいます。

アンプ回路は万能ではないため出力は必ず電源の影響を受けます*1。電源電圧があまりゆらぐと再生音以外の余計な音まで出力して漏れてしまうことになり、問題があります。オーディオアンプなら、それは結果として音が悪くなります。

*1 : いかに電源の影響を受けないか、またはどの程度影響をうけるかという基準がオペアンプなどのデータシートには書かれています。

カレントミラー型

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ネットを見ていると結構好んで使われるカレントミラー型のレールスプリッタです。「Q1,Q3」と「Q2,Q4」がカレントミラーを構成しており、R3, R4に設定した電流がQ2, Q4および仮想GND引き出し点に流れる回路です。

アイドル電流は、

I = (V-1.4) / (R3+R4)

で設定します。この電流は「Q1,Q3」と「Q2,Q4」で同じように流れるので定常時の消費電流では倍になります。電圧が高いときはトランジスタを大きくするか、抵抗値を2.2kや3.3kなどに増やす必要があります(熱暴走という現象が起きQ2やQ4が壊れます。もしくはQ1とQ2, Q3とQ4をそれぞれ熱結合する方法もあります)。

安定度はアイドル電流の設定によります。仮想GNDの大きな変動はQ2, Q4による効果で抑えられますが、小さな変動(10mV以下)はアイドル電流設定値によります。この部分では抵抗分圧とあまり変わりません。

余談ですが、トランジスタを4つではなく倍の8つ使った俗に高精度カレントミラーと呼ばれる分圧回路もあります。ですが、分圧が目的である回路のカレントミラー(Q1, Q3の電流に対するQ2, Q4の電流)の精度を上げて何の意味があるのか大いに疑問が残るところです。

専用IC TLE2426

Ti社が市販している、仮想GNDのためのレールスプリッタ専用のICでTLE2426があります。

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見ての通り使用法がとても簡単で、電源を与えてあげると仮想GNDを単純に1pinから出力してくれます。

売っているお店が限られるのが少々難点かもしれません。個人的に使ったことがないので、紹介程度に留めておきます。

オペアンプ使用型

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※オペアンプの電源接続は省略しました。

オペアンプを使用した分圧回路です。R5, R6で生成した中間電圧をオペアンプで増幅(1倍バッファ)して分圧します。オペアンプによるフィードバックがかかるため、仮想GNDが安定しやすいという利点があります。

オペアンプをシリアルにつないだり、全体をフィードバックに入れたり、オペアンプ1つで済ませたり、出力の抵抗を入れる位置がループ内だったり、そもそも出力抵抗を省略してしまったりと色々と方法はあります。1回路オペアンプならば1つで済ませても構いません。

掲載図は比較的トラブルが少ない方法です。2回路入りオペアンプを想定していて、電流が30mAぐらい(できれば50mA~)出せれば大抵のもので動くかと思います。R7, R8のように出力に抵抗を入れるのが肝で、この処置をしないと発振してしまうオペアンプもあります。大容量電解コンデンサをつける場合、経験上ほとんどのオペアンプで抵抗省略して問題ないようです(そのほうが分圧性能も良い)。

R6と並列に1uFぐらいのコンデンサを入れると良いような気がするのですが、あまり好まれないようです。

オペアンプは

  1. 出力にノイズを出す
  2. 入力された信号(電圧)を出力するまでタイムラグがある(位相遅れ)

の理由から万能ではないのですが、これは見落とされることが多いようです。低周波における仮想GNDの変動は他の方法に比べ低いレベルで抑えることができますが、高周波における変動には無力ないしは位相遅れの影響で仮想GNDを必要以上に揺らすことがあります(使用するオペアンプやその他の回路条件によります)。

これらは微小な変動でさほど気にする必要はないのですが、完璧(万能)ではないという意味で知っておくといいのかも知れません。

オペアンプを使用するならば次のバッファと組み合わせる方法が優秀です。

オペアンプ+バッファ型

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※U3, U4の電源接続は省略しました。

オペアンプにLT1010やBUF634などのバッファICを組み合わせるのがこの方法です。オペアンプは色々なものが動作しますが、ちょっと検証する時間がないため某所より組み合わせを拝借しました(苦笑)*2

単純なオペアンプだけの回路に比べ、出力に抵抗を挟む必要がないため性能が優れています。電圧安定度もよいのですが、オペアンプ分圧と同様にオペアンプ自体のノイズや位相遅れの影響は受けます。ただ位相遅れの影響はオペアンプ単独よりも少なめです。

両電源vsレールスプリッタ

例えば単3電池を4本用意できるとして、これを2本ずつの両電源として利用したほうがいいのか、4本直列の単電源としてレールスプリタしたほうがいいのか。


両電源がいいに決まってます。


レールスプリッタを入れる金銭的余裕もしくは場所があるならその分で電源コンデンサを追加したほうがよっぽどマシです。レールスプリッタは万能ではないので、そうせざるを得ない事情でもければわざわざ選択する必要はありません。

ただ、レールスプリッタにも次のような利点があります。

  • 電池の消費が平均化されやすい。
  • 正負の電圧が常に同じになる(正負電圧アンバランスにならない)。
  • ACアダプタ等の電源から正負電源が簡単に作れる。

電池やバッテリー両電源では、回路の正電源側と負電源側の消費電流が異なるため*3正負消費電流が異なったり、そもそもバッテリー自体の個体差によって正負の電圧バランスが崩れることがあります。

電圧バランスが崩れるとオフセットが大きく出たり、最悪の場合は信号振幅に正負で歪みがでることもありうるので*4、レールスプリッタを好む人も居ます。

*3 : トランジスタ等の素子性能が完全にPNP/NPNで同一で無かったり、オペアンプ内の回路が完全な正負対称ではないことが理由。

*4 : 電源一杯まで信号をスイングさせなければ問題になることは少ないけども……

まとめ

本当は測定して、オシロの波形出したりして「こんな風に違いが出ます」ってやりたいところではあったのですが、執筆当時高熱で寝込んでたため文字だらけの味気ない原稿に(苦笑)*5

レールスプリッタ/仮想GNDの話はどこをみても体系的にまとめられていないので、少しは参考になりますでしょうか。お手軽に済ませたいならカレントミラーぐらい。ちょっと凝るならオペアンプやオペアンプ+バッファ構成ぐらいが良いかと思います。

なおレールスプリッタが通用するのはせいぜいヘッドホンアンプ程度までで、スピーカーアンプでやるのは無謀です。しかし、絶対無理かというとそうでもなくて、やってみると小型スピーカーぐらいならそれなりに動いたりします。大きめの電流による不均衡は全部電源ノイズとなるので、どうかとは思いますけど(苦笑)*6

*5 : デジタルオシロほしいなあ。デジタルオシロあるとこういうオシロの波形貼り付けるのがすごく楽なんです。

*6 : でもこの電流駆動アンプは単なる抵抗分圧で現在も動いてたりします。電流駆動であるがゆえの問題があるので音質はともかくですが(苦笑)

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